ストーリー
緑豊かな町の一家で母、良子が亡くなる。この映画はその娘、みつこと父、悟の慟哭の物語だ。
悟は自分でも思う以上に妻の病死が重過ぎ、その悲しみから抜け出られなくなる。
天職である墓石彫りも捨ててしまい、やがてアルゼンチンババアと呼ばれている謎の女、ユリのもとに居着く。
娘のみつこも母の死から沸きあがる哀しみやそんな意気地ない父へのやるせなさから、時折感情がコントロール不能になる。
そんなときにみつこは無我夢中となってパンを捏ね、やり場の無い激情をパン生地に練り込みやり過ごす。
やがてユリには悟との新たな命が宿り、子供が生まれる。
みつこは父の逃避とユリとの愛の意味を知り、父にとって大き過ぎた悲しみを分かち合う。
悟はみつこと赤ちゃんの父として立ち直る…と、ユリと約束を交わし、亡き妻の墓石を自らの手で彫り上げることで遂には妻の死を受け入れる。そして三人の悲しみと幸せの涙は、次の新しい命に込められてゆく。
レビュー
そもそも鈴木京香という女優はババアという括りには余りに美し過ぎるし、怪しげなババアにタンゴを躍らせるなら他にも相応しい女優も居ただろうに…と一瞬頭をかすめた。しかし、この映画の鈴木京香はやはり良いのだ。
スクリーンの中から語りかけてくる彼女の深く淀み無い声は、物語の二人を悲しみから救う為に必要だったしこの声の力は更に観る者の心も癒すのに余りある。
窓を開け放ちスーッっと流れ込む涼風に目を瞑る…鈴木京香の語り部にはそんな心地良さが満ちていた。
また、みつこを演じる堀北真希は、この頃の高い評価を更に堅くするだろう演技を見せてくれる。
映画の中で彼女は吉本ばななの「TUGUMI」にも通じたブレのない芯の強い気質と、自身の正義から逃れられない少女の機微を可憐に表している。
物語の終盤、軽トラックの荷台に積まれた母の墓石を挟み悟とみつこが話し合う。話しながら父は娘との距離をどことなく照れくさそうに少しずつ詰めてゆくのだ。
やがて母への想いを込めた墓石を乗せて、父と娘は最後にもう一度イルカの泳ぐ思い出の海へと小舟を滑らす…
二人に横たわっていたわだかまりが解けてゆくにつれ、みつこの表情も朗らかになってゆくあのシーンはとても美しく心救われる思いがした。
ある家族の中にいつまでも残って大切にされるアルゼンチンババア…自分も彼女のような人でありたいと感じさせる、そんな暖かい作品だ。
T,Tomonaga.
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