映画『長い散歩』

監督 : 奥田瑛二(『少女』『るにん』)
出演 : 緒形拳/高岡早紀/杉浦花菜/松田翔太/大橋智和/原田貴和子/木内みどり/津川雅彦/奥田瑛二

作品紹介

「一貫して真実の愛を描いてゆきたい…」と監督の奥田瑛二は会見の冒頭で語った。
過去にも2本映画を撮り、どれも海外の映画祭でいきなりグランプリに値する賞に恵まれるほどの奇才"監督奥田瑛二"が今日のような完成報告記者会見を行うのは意外にも本作が始めてだ。

この作品は「今までそうした準備が整ったら(会見も)やろうと思っていたが、この映画で初めて記者発表をやろうと思ったのでやった…」と、そう本人から語れるだけの見応えの有る力作だった。

会見には、奥田瑛二と主役の緒形拳の他、新人子役の杉浦花菜、高岡早紀、松田翔太、大橋智和が登壇。若手奥田監督が"重鎮"緒形拳に改めて恐縮しつつも、製作にまつわる会話を楽しんでいたのが印象的であり、本作で二人はとても厚い信用関係を築けたのだと察した。

また、特筆すべきはやはりこの映画で初めて演技をしたという、サチ役当時5歳の杉浦花菜だ。会見では正に5歳の少女というより幼児に過ぎなかったのだが、この映画に思わず惹きこまれ、サチ役の存在感がどんどん大きくなっていったのも、この花菜ちゃんの存在そのものの魅力に他ならない。

最後に筆者が言うまでもなく、緒形拳をして「凄い監督になる予感がする」とこの世界の大先輩から最大級の賛辞を送られた奥田監督である。多くは俳優奥田瑛二の顔しか良く分からないはずだが、しかしこの映画を観れば意外性を遥かに突き抜けた彼の本当の居場所が分かるだろう。奥田瑛二、恐るべしである。

 

ストーリー

足の踏み場も無いほどのゴミ溜めとなったアパートの部屋に、毎夜のように若い男を連れこみ情事に耽る母、真由美。娘のサチはその度に外に放り出される。もはや母親に半ば見捨てられたサチの居場所は無かった。そんなサチにとってただ1つ、川原近くにお気に入りの品々を集めただけの隠れ家が、サチが安心出来る本当の部屋だった。
そんな親子の隣部屋に、松太郎は何も知らずに引っ越してくる。自ら妻を死に追いやってしまったという贖罪に駆られる初老の松太郎と、誰にも開かず心を塞いてしまったまま暮らす5歳の少女サチが、お互いを救い合うように青い空と白い雲の見える高い山へ旅に出る。しかし直ぐに松太郎は誘拐犯の指名手配を敷かれる…

 

レビュー

個人の権利やプライバシー保護の観点がいたずらに横行しつつあるように思えるこの近年、その風潮がややもすると、一寸の我慢すら忘れさせ、単なる個人の我侭をも躊躇無く優先させる都合の良い理由になってきている気がしてならない。

その歪とも言うべき隙間に最初に落ちるのは、本来常に愛情に包まれていなくてはならない子供たちであり、とりわけ全く無力で深刻な心の傷を残してしまう幼児児童への卑劣な行為はあってはならない。映画の中で高岡早紀演じる真由美が奥田の演じる刑事にこぼした自分の育てられ方…親から愛されず育った母が繰り返すという悲しい連鎖が本当にあるとすれば、それはサチで断ち切って欲しいと切に願うのだ。

この作品には、監督の言う真実の愛を描く動機上、壮絶なまでの幼児虐待と深刻なネグレクトが同時に描かれている。だから必ずしも誰もが楽しめるという類の映画では無いかも知れない。
しかし現実として今もどこかで少なからず繰り返されていると伝えられる虐待においては、見て見ぬ振りをしない大人の目、社会の目が如何に大事であるかも分からせてくれる。
この点に注目するのは監督の製作主眼からは少し離れてしまうかも知れないが、改めてこの事を多くの人にも実感して欲しい。

川原に広がるセイタカアワダチソウの黄色が告げる秋の終わりと、二人の「長い散歩」の行く末…監督が言う真実の愛の先に、サチにとっての温もりの絶えない暖かい冬が今度こそ訪れるのだろうか。

 

2006/7/20 都内イベントホール 司会進行 伊藤さとり

T,Tomonaga


モントリオール世界映画祭で堂々の三冠受賞 !!   

2006/9/5 第30回2006年モントリオール世界映画祭で奥田瑛二監督の本作品『長い散歩』が三冠受賞。コンペティション部門で最高賞にあたるグランプリを受賞、他に国際批評家連盟賞、エキュメニック賞を受賞いたしました。

――奥田瑛二監督の凱旋帰国記者会見報告――

監督はモントリオールからの帰国の機内で、既に受賞を知るフライト・アテンダントからも次々とお祝いの言葉をもらっていた…

皆が自分に起きた事を知っていてくれたという喜びと感じながら、監督は機内で会見の心構えをして会見に臨んだそうである。

約400本もの参加作品の中からノミネートだけでも21本に絞られたという今年9月の第30回モントリオール映画祭、コンペティション部門。そうした世界レベルのコンペ審査の高みにおいても、映画「長い散歩は」満場一致でのグランプリ選出となった。

グランプリ受賞を筆頭に国際批評家連盟賞とエキュメニック賞※1の受賞は今後の映画人としての存在感の確立は当然ながら、"一貫した真実の愛を描く"という監督の奥田イズムにとっての堅い足掛かりとなるものだろう。
つまり3冠受賞という実績で、まず一時に一層広い世界の人に奥田イズムを浸透させる事が現実になったのだ。

映画人としてこの喜びはとても大きく、凱旋の場で奥田監督はこの嬉しさを隠す事はなかった。


現地の映画祭での反応

最初の上映翌日、一般の人、映画祭の関係者含めいろんな人から明確な反応を持って声を掛けられた。そうした手応えから何か1つくらいは受賞できるかもな…という期待を持っていたようだ。

3回目の上映でも600人位の劇場が満席となり、エンドロールが終わるなかスタンディンク・オベーションが続く。その後、進行に支障をきたすほどの盛り上がりで会場を追い出されるように屋外に出るが、それでも次々と来るいろんな人たちに囲まれたそうだ。

監督は「この映画を観て、夕べは改めて自分の子供を可愛がり5時間も抱きしめたわ…」と、ある女性との話を紹介したうえで、未来に向かっての子供たちの存在というものが一番大切なことの1つであるという、この映画のテーマを伝えることが出来た…と、晴れ晴れとした顔で語っていた。

また、今まで監督は観に来てくれた人には「観に来てくださってありがとう」と言ってきたが、ある人に「君はありがとうを言わなくていいんだ、ありがとうを言うのは僕らのほうだ。こんなに素晴らしい作品を見せてくれたのは君だ。」と言われ、ああそうかとも思ったと語った。

そして、「ここでグランプリをすんなり貰えると考えるのは時期尚早、まだまだ甘いぞ…と思っていた」という言葉に象徴されるように、終始謙虚で奢らない奥田監督の姿勢が隙の無い上質な映画作りに繋がったはずである。そしてその事は海外の映画人にも高く評価されたのだ。


「あなた、あそこあんなじゃダメ!書き直しといたから…」

仕事は完全に家にも持ち込んでしまうという奥田監督。文字通りの家族と二人三脚、彼の脚本草稿には、翌朝になると和津さんが赤ペン添削が入ったりしたそうだ(笑)
「あなた、あそこあんなじゃダメ!書き直しといたから…」と容赦なく修正が入る。
また助監督を務めた娘さんからも「今の若い子はこういう言い方はしないわね…」と更に追い討ち添削をされたり…

始めは人の台本に勝手に手が入るのがイヤで堪らなかったそうだが、終いには「3人でもう一度この部分考え直すから、みんなスケジュール空けておいて」ということも幾度もあったと打ち明けている。
その家族一丸となった合作を踏まえ、『桃山さくら』※2というペンネームが敢えて脚本に添えられている。

終始、謙虚な映画人…というのが印象的だった奥田監督であるが受賞のプレートを両手に溢れんばかりに抱えるその表情には、今後を見据えたような大変引き締まったものが感じられた。

※1 エキュメニック賞:(人権問題に関わる優れた作品に与えられるキリスト教団体からの賞)
※2 助監督安藤桃子、次女の安藤サクラのアイデアと、親交のある脚本家山室有紀子の協力のもとに執筆 。桃山さくらのクレジットは、こうした三人の頭文字。

登壇者(登壇順、敬称略)奥田瑛二監督、橋口一成プロデューサー、杉浦花菜、安藤和津
司会進行 伊藤さとり 2006/9/7 都内ホテル

T,Tomonaga

 


東京渋谷 Q-AXシネマ 晩秋ロードショー
名古屋伏見ミリオン座 12月ロードショー ほか全国順次公開

配給:キネティック

>>オフィシャルサイト

 

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(C)2006「長い散歩」製作委員会

映画『長い散歩』
東京渋谷 Q-AXシネマ 晩秋ロードショー
名古屋伏見ミリオン座 12月ロードショー ほか全国順次公開

奥田瑛二監督

主演、松太郎の緒形拳

幸(サチ)を好演した新人子役、杉浦花菜。名古屋でのオーディションでは、現れたその場で決定だったという逸材。

サチの母親、真由美を演じた高岡早紀

旅の青年ワタルを演じた松田翔太。奥田監督は松田の持つ透明感と父譲りの凄まじい物を持った姿に惚れている。

サチの母親、真由美の情夫を演じる大橋智和

サチが唯一幸せだった頃の思い出の象徴、天使の羽を纏って登壇。

緒形は丁度この日7/20が69歳の誕生日。花菜ちゃんがみんなを代表してお祝いの花束贈呈。


 

2006/9/7 凱旋記者会見

奥田氏と三冠の盾

 

橋口プロデューサー

 

モントリオール世界映画祭の模様…

 

「お肉がとっても大きかったけど美味しかったです。(みんなに誉められて)嬉しいです。」と爆笑の渦。


奥田 瑛二夫人である安藤和津さん 「ようやく1つの山の頂上に来たなと思います。ありがとうございます。」


 

 

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